子ども期のトラウマと
複雑性PTSD
当事者が考える回復へのプロセス
ACEsを繰り返さないために

ACEsの世代間連鎖を断ち切るために
ACEs(子ども期の逆境体験)を経験した人たちは、子どもの頃に心の発達が止まってしまい、ストレス反応系や脳の機能に悪影響を受けます。
この影響は成人後も続き、複雑性PTSDや他の精神疾患、貧困に苦しむ可能性が高くなります。
私は、同じような苦しみを次の世代に繰り返させたくないと強く願っています。
このページでは、ACEsの被害者を増やさないために、私たち当事者にできることを紹介します。
いちばん大切なのは、子どもの人格を否定しないこと
子どもは親の持ち物ではありません。
ひとりでは何もできない生まれたばかりの赤ちゃんも、ひとりの独立した人間です。
その人格を否定してよいはずがありません。
自分が言われたら嫌なことを、子どもに言ってはいけません。
自分が過去にされた嫌なことを、子どもにしてはいけません。
万が一、人格を否定するようなことをしてしまったら、すぐに子どもに謝らなければいけません。
ひとりでは生きていけない人(=子ども)を守りつつ、生きる力を身に付けさせるのが、親の役割のはずです。
まずは親(自分)が回復する
自分がACEサバイバーであるという自覚がないままでは、子どもを適切に養育することは難しいです。
親にされたことを、無自覚のまま自分の子どもにも繰り返してしまう可能性もあります。
それを防ぐには、まずACEsや複雑性PTSDについて知り、自分の状態を理解することが重要です。
例えば、私はカウンセリングを受けて、自分の感情や感覚を認識する練習をしました。
その結果、妻や子どもの感情に対しても、以前よりは理解を示せるようになりました。
もちろん完璧ではありませんし、反省する毎日ではあります。
でも、少しずつでもできることを増やしていく、それを毎日積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。
子どもが安心できる養育環境をつくる
子どもにとって安心な養育環境とは、「困ったときに親の顔を見ると安心する」という親子関係です(大河原 2015)。
具体例として、子どもが転んで泣いているとき、「痛かったね」「びっくりしたね」と声をかけてあげることです。子どもの感情を無かったことにせず、寄り添ってあげることで、子どもは自分の感情を素直に他者に伝えられるようになります。
私の経験では、子どもが学校で嫌な体験をしたときに、「それは本当に辛かったね。どうして欲しい?次はどうしようか?」と聞いてあげ、一緒に考えてあげることで、子どもが自分の気持ちを話せるようになりました。
こういう親子のやり取りと通じて、私自身の対人恐怖も少しずつ改善していったように思います。
ポジティブな感情もネガティブな感情も、子どもが自分の感情を素直に表現できる環境を作ることが重要です。
子育てはできる
ACEサバイバーでも子育てをあきらめる必要はありません。
もちろん、不適切な子育てを繰り返さないという強い意志は必要になります。自分のACEsの辛い体験をどのように捉え、子育てに反映するかが鍵になります。
子育てには困難が伴うこともありますが、子どもと過ごす時間は一生の財産であり、子育てによって自分も回復していると感じることがあります。
ACEサバイバーのうち、約4割の人は世代間連鎖を断ち切れているというデータもあります(三谷 2023)。多くのACEサバイバーが、子どもを大切に育てたいと努力と実践を重ねています。ACEsは必ず世代間連鎖するものではないのです。
私は、親自身が自分の症状に向き合えていれば、子育ては可能であると考えています。
不完全な親でも大丈夫
「ちゃんとした親」になりたいと願っても、実際には様々な困難に直面します。
私も子どもと接することでトラウマをフラッシュバックし、積極的に子どもと接することができない時期がありました。
家族の理解や協力を得る必要があるシーンも少なくなりません。
でも、親の弱みを見せながら子育てしてもいいのではないでしょうか。
良いことも悪いことも共有するからこそ、みんなで支え合う家庭が築けるのだと実感しています。
親も、子どもと共に成長していきます。親が成長する姿を見せることは、子どもにとって意義のある経験になると思います。
まとめ
ACEsを繰り返さないためには、親自身が回復に向かいながら、子どもに安心感を与える養育環境を築くことが重要です。
そもそも子育ては困難を伴うものです。
親子の時間を大切にしながら一緒に成長することで、次の世代により良い未来を提供することができます。
大河原美以 (2015) 子どもの感情コントロールと心理臨床. 日本評論社
三谷はるよ(2023)ACEサバイバー ─子ども期の逆境に苦しむ人々. ちくま新書 1728, 筑摩書房